黄昏に香る音色
「本物の音に、本物の観客!学校での発表会みたいな…御遊戯ではなく、本物を!!」

井守の絶叫は続く。

「うおおお!どこにいるんだ!本物の観客なんてよお!ただ女を口説く為の、BGMじゃねえかよ!」



「それがどうした?」

井守の叫びに対して、

健司は、冷たくこたえた。

武田はまた、ため息をつくと、

タバコを吸おうとしたが、

ポケットから取り出した箱には、1本も残っていなかった。

すると、原田がタバコを差し出す。

武田はフッと笑うと、飛び出した1本をくわえ、

原田は、それに火をつけてやった。



「て、てめえ〜」

井守の怒りを、冷ややかに見つめながら、健司は言った。

「俺らがやってる音は、BGMだ」

「健司!貴様。音楽家としてのプライドは、ないんかよ」

井守は、健司に近寄り、胸倉をつかんだ。

「音楽家って…何よ?」

健司は、右手に持った楽器ケースを握りしめ、

「なあ?井守…。アーティストって何よ?」


井守は、自分を見つめる健司の真っ直ぐな瞳に、動けなくなる。

「俺達のやってる音は、世間で流行ってる曲でもねえ。普通の人間は、聴かない音だ」

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