黄昏に香る音色
「だから…知らない曲なんて、BGMだ!!だけどな」

健司は、井守の腕を取った。

「だからこそ、真剣にやるんだよ!誰かの心に、少しでも訴えるようにな!」

武田と原田は、黙ってタバコをふかしている。

「音楽家?アーティスト!?…そんな言葉の、自己満足なんて、いらないだよ!!」

健司は、井守の手を離すと、

「音楽は、観客がいてこそだ!本物の観客だと!俺達が、本物の観客にするんだろうが!ボケがあ!」

健司はそう叫ぶと、

また前を向いて、歩き出す。

その後ろ姿を、呆然と見送る井守の肩に、武田が手を置いた。

武田はタバコを捨て、

「俺たちゃ…そんな奴らの集まりだろ?」

武田も、歩き出す。

そして、少し振り返り、

「まあ…お前は辛いよな」

すぐに前を向き、右手を上げた。

原田は、欠伸をすると…タバコをくわえながら、歩き出す。

「ケッ!そんなこと…わかってる…」

井守も歩き出す。

「だけど…切ないじゃねえかよ…。俺達の音が…BGMなんてよ…」


少し歩くと、理恵の歌もきこえなくなった。

終電近くの慌ただしい街並みに、

一番似合う音は、車のクラクションと、

行き交う人の足音だった。
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