黄昏に香る音色
ほんの少しだけでも…立ち止まってしまった自分に驚き、戸惑いながら、

明日香は、男の子から少し距離をとり、

グラウンドを、眺めることにした。

渡り廊下は大体、マンションでいうと三階くらいの高さがあり、広々としたグラウンド上の人々の動きを、眺めるには、ちょうどよかった。

歓声が、一際熱くなる。

サッカー部のエース…高橋にボールが、渡ったからだ。

明日香とは、同じ学年であり、クラスはちがうけど、その人気、知名度は…学校中で、知らない者は、いないくらい有名だった。

リズムが変わる。

明日香は、古くて少しガタガタする手摺りを引きちぎるような勢いで、

体をぶつけた。

足元を見ず、ただ相手と、ゴールだけを見据えた動きは、

まるで音の旋律のように、

次々と人を抜いていく。

そして、自らのソロは終わったとばかりに、

隣を併走していた味方の選手に、絶妙なパスを出す。

チッ。

ボールを奪おうとした選手の舌打ちが、きこえてきそうだ。

ソロは終わらなかった。

ほんの少しのアクセント。

ボールは再び、高橋の足元に引き寄せられるように、戻っていく。
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