黄昏に香る音色
「好きじゃないよ」

里美は下を向いて、俯いたまま、呟くように話し出す。

「好きじゃないから…大丈夫だよ。心配しないで…明日香」

そう言うと、里美は自分に言い聞かすように、深く頷き、

今度は、早足で歩き出した。

「心配しないでって…心配するよ。あんなこと言われたんだから」

後を追いかけようとする明日香に、

里美は歩きながら、

「だから、心配しなくっていいって。あたしは、大丈夫だから」

妙に真剣で、思い詰めた顔で、何度も頷く里美。

「全然大丈夫じゃないよ」

追いかけてくる明日香に、

里美はいきなり、足を止めて、振り返った。

もう駅の改札近くだ。

切符売り場の前まで来て、

里美は叫んだ。

「好きじゃないから!高橋君なんて…あたしは!」

「里美?」

里美は、泣いていた。

泣きながら、叫ぶ。

「あたし…親友が好きな人を、好きになんてならないから!心配しないで」


「何言ってるの…」

里美の手を掴もうとしたけど、

振り解くようにして、改札に消えていった。

追い掛けようとしたが、

定期を出すのに、手間取ってる間に、電車は来て、

里美が飛び込むと…ドアが閉まった。

「里美」

無情にも、電車は出た。

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