黄昏に香る音色
明日香は、里美を見つめながら、強い口調で話し掛けた。

「あたし。今、好きな人なんていないから!誰も、好きじゃないから」

明日香の言葉に、里美は足を止めた。

そして、今日初めて、明日香に顔を向けた。

「本気で、そんなこと言ってるの?」

里美は驚きの中に、少しの怒りを混ぜた口調で、明日香にきいた。

明日香は、力強く頷いて見せ、

「本当よ。あたしは、誰も好きじゃないの」



「本当?」

里美は、疑いの眼差しを向ける。

「本当よ」

明日香は、里美から目をそらさない。

「本当に…誰も好きじゃないの?」

里美は言葉を切り…明日香から目をそらした。

「あの人のことも…」

「好きじゃないわ」

呟くように言った里美の言葉を…明日香は、きっぱりと否定した。


「ふ〜ん」

里美は、そう言うと、

歩きだした。

先程までの重い足取りではなく、いつの里美の……いつも以上に、軽やかに歩きだした。

とても嬉しそうだ。

明日香は少しほっとして、

笑顔を浮かべながら、里美の横を並んで、歩いた。

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