黄昏に香る音色
明日香は涙を流さず、ゆっくりと微笑みながら、

渡り廊下を歩き、手摺りに近づくと、大きく深呼吸した。

昨日より、ゆうの近くに…もたれる。

それだけで、少し落ち着いた。

明日香の目に、耳に…周りの様子が飛び込んでくる。

明日香は口を開いた。

「昨日。いろいろあって…友達とちょっと…もめたんだけど…」

明日香は、ちらっと左横を見ると、ゆうがこちらを見ていた。

思わず、顔を背け、

「…あっ!そう言えば…昨日、すぐいなくなったね」

少しの沈黙が、2人の間に走る。

グラウンドから、サッカー部監督の激しい指示が、聞こえてきた。

取り巻きの声は、聞こえてこない。

ゆうは顔を前に向け、

「ちょっと…用があったから、急いでいて…」

ゆうは少し口ごもり、

「それより昨日…何があったの?」

今度は、明日香が視線を外した。

「べ、べつに大したことじゃない…」

ゆうの憂いをおびた瞳が、ずっと…明日香を見つめていた。

「友達とは、仲直りしたの?」

明日香は、目を伏せたまま、軽く頷いた。

「うん。一応は…」

「よかった」

ゆうは微笑んだ。

明日香は手摺りを、ぎゅっと握りしめた。

ゆうの笑みが、消えた。
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