黄昏に香る音色
「昨日…タブルケイのCDを、聴いたんですけど…。ジャケット見たら…」

明日香は、ストローを持ち、グラスの中の氷を見つめながら、転がした。

そして、次の言葉を発した。

「健司さんって…。阿部っていう名字なんですか?」

恵子の煙草を吸う手が、

止まった。

顔を上げた明日香は、恵子の様子に気付いた。

少し固まった恵子の指先から、煙草の煙が漂う。

気まずい雰囲気。



「兄貴だよ」

いつの間にか、阿部が明日香の後ろに来ていた。

阿部は、明日香の隣に座ると、吐き捨てるように言った。

「トランペッターとしては、最高だが、男としては最低なやつさ!」

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