非日常への扉
始まりの扉
ある晴れた日の昼休み、私は友達から借りた少女漫画「きらきら☆デイズ」の1巻を読んでいた。
この漫画はどこにでもいる普通の高校2年生の女の子が主人公。
ある日3年生の中でも特に人気でカッコいい先輩に秘密の部活にスカウトされる。
そこは特に秀でた能力を持つ生徒たちが集まり、ひそかに校内の問題を解決している部活だった。
何も特技などない主人公は実は人違いで声をかけられただけだったが、秘密を知ってしまったので入部することに。
そして個性的な5人の男子部員と一緒に部活動をすることになる。
「これ、すっごくいいね!男キャラみんなかっこいいし。主人公は誰とくっつくのかな」
読み終わったあと、後ろの席に座っている友達、弥生に声をかける。
「ね!いいでしょ。優衣だったら気に入ると思ったよ。この作者の描く男の子かっこいいよね。もうすぐ2巻が出るからまた貸すよ」
「私も自分で買おうかな。イケメンの中に女子1人とか、憧れるよねえ」
「ま、現実ではありえないけどね」
漫画やゲームの中ではよくある設定だけど、現実ではありえないのはよくわかっている。
ごく普通の女の子がイケメン達にモテモテなんて起こりうるワケがない。
この漫画の主人公だって「ごく普通」と言いつつも可愛いしメンバーにもすぐに溶け込んでいるし、私から見たら全然「普通」ではない。
「はぁ・・・なんかさー、中学の頃は高校生になったら彼氏ができて毎日ドキドキで楽しい毎日が送れるものだと思ってたけど、意外と何もないよね。高2っていったらもっとこう、キラキラ輝いてるはずだったのに。
「なんでこうなのかなあー。はぁ・・・」
漫画と自分との違いに思わずため息をついてしまった。弥生も「だよねえ」と言いつつため息をつく。
私も弥生も、今まで彼氏ができたことがない上に、クラスの男子ともほとんど喋ったことがない。
私は部活や生徒会にも入っていないし、バイト先のファミレスも女性ばかりなので男性とほとんど接点がない。
弥生は吹奏楽部に入っているけれど、こちらも女子ばかりだ。
男子と仲良くなりたいならまずは話しかけるしかない、なんてのはわかっている。
でも何て話しかけたらいいかわからない。急に話しかけて「いきなり何だこいつ」って思われるのも怖いし。
この調子じゃ彼氏なんて絶対できないよなあ、とテンションが思い切り下がったところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あれ、まだ返ってきてないんですか」
「人気の小説だから、しばらく予約で埋まってるよ。予約していく?いま予約しても3か月後くらいになるけど」
「いえ、いいです」
放課後、私は学校のすぐ隣にある図書館に来ていた。
前から気になっていた恋愛小説は、まだ貸し出し中だった。
3か月待ってまで読みたいとは思っていなかったのでそのまま図書館を出る。
今日はバイトもないしまっすぐ帰ろうかな。本屋に行きたいけど、今あんまりお金もないし。
そんなことを考えていると、学校の方からこちらに向かって走ってくる男子生徒が目に入った。
まわりの生徒は立ち止まってしゃべっていたりゆっくり歩いている中走っているから、ちょっと気になってしまった。
そんなに急いでどこに行くのかな。
その生徒が私の前を通り過ぎた後何かが落ちる音がした。音のした、足元を見てみると、携帯電話が落ちていた
これはすぐ渡さないと・・・って、足速っ!
よっぽど急いでいたんだろうか、男子生徒は図書館より少し先にある書庫に駆け込んでいった。
書庫に行くなんて珍しいなあ。
ここ、森野学園の学園長は本を集めるのが趣味で、この大きな図書館に入りきらない本を隣の書庫に置いてあるらしい。
書庫にある本はかなりマニアックな本が多くて、ほとんど外国語の本の上、貸出禁止なので生徒はほとんど立ち入らない。私も一度入ったきりだ。
男の子を追って、書庫に入る。オレンジ色の間接照明で照らされた室内は薄暗くてちょっと不気味だ。
「あれ、どこに居るんだろう」
男子生徒はなかなか見つからなかった。
室内のいたるところになんだか毒々しい色をした見たことのない植物があったり鎧が飾ってあったりしてそれがさらに不気味さを増している。
これ、いきなり動き出したりとかしないよね・・・?
できればすぐにここを出たい。けど携帯落としたままじゃ困るだろうし・・・。
ぐっ、と拳を握って歩き出す。
それにしても、本当にたくさんの本がある。背の高い本棚がいくつも並んでいて
それぞれにぎっしり本がつまっている。一体何冊あるんだろう。
ドキドキしながらどんどん奥に進んでいくと、2つの本棚の間に挟まれた赤い扉を見つけた。
・・・いかにも、怪しそうな扉だ。ここ、入っていいの?駄目じゃないの?でも、この先に入っていったのかもしれないし。
しばらく迷った後、ドアノブに手をかける。
―非日常への扉は、意外と近くにあるのかもしれない。
きらきら☆デイズの1ページ目。扉を開くとき、その言葉が頭をよぎった。
「あれ、なんか狭い・・・」
もっと広くて、また謎の植物や置物が置いてあると思ってたのに。
この部屋は、私の部屋と変わらない・・・6畳くらいだろうか。それくらいのスペースに本棚が3つしか置いていなかった。
さっきの男子生徒の姿はない。
見渡してみると、壁際にある本棚の中に、1冊だけやけに鮮やかな表紙の本がある。
他の本は古くてぼろぼろなのにその本だけ妙に綺麗だ。気になって、手に取ってみようとすると
「あ、あれ。なにこれ。取れない・・・」
引っ張ってみても、本棚に張り付いているようでなかなか取れない。
なんなの、これ。取れないとなると余計に気になる。
「ええい、引いてだめなら・・・押してみろっ」
カチッ
「えっ?!」
その本を押すと音が鳴り、本棚が真ん中からゆっくりと左右に開いた。そして開いた先にはまた扉が。
なに、これ。ついこの間、こんなの見たような・・・
あっ。この前やったゲームだ!この先はボス戦だったんだよね。装備万全にしてからセーブしないと。って、違う違う。
目の前で起こった突然の事を理解できず、混乱しまくっているとまた本棚はゆっくりと閉じていき、元通りになった。
どうしよう。これは、行くべきか、引き返すべきか。何か危ない部屋だったらどうしよう。
ゲームだとこの先は謎の研究施設だったっけ。口封じのために殺されたりしたらどうしよう。
ああ、でも気になる。この先に何があるのか。
大きく1回深呼吸。そしてまた本を押す。
ゆっくり開き、また現れる扉。もう一度深呼吸して、ドアノブを回す。
この漫画はどこにでもいる普通の高校2年生の女の子が主人公。
ある日3年生の中でも特に人気でカッコいい先輩に秘密の部活にスカウトされる。
そこは特に秀でた能力を持つ生徒たちが集まり、ひそかに校内の問題を解決している部活だった。
何も特技などない主人公は実は人違いで声をかけられただけだったが、秘密を知ってしまったので入部することに。
そして個性的な5人の男子部員と一緒に部活動をすることになる。
「これ、すっごくいいね!男キャラみんなかっこいいし。主人公は誰とくっつくのかな」
読み終わったあと、後ろの席に座っている友達、弥生に声をかける。
「ね!いいでしょ。優衣だったら気に入ると思ったよ。この作者の描く男の子かっこいいよね。もうすぐ2巻が出るからまた貸すよ」
「私も自分で買おうかな。イケメンの中に女子1人とか、憧れるよねえ」
「ま、現実ではありえないけどね」
漫画やゲームの中ではよくある設定だけど、現実ではありえないのはよくわかっている。
ごく普通の女の子がイケメン達にモテモテなんて起こりうるワケがない。
この漫画の主人公だって「ごく普通」と言いつつも可愛いしメンバーにもすぐに溶け込んでいるし、私から見たら全然「普通」ではない。
「はぁ・・・なんかさー、中学の頃は高校生になったら彼氏ができて毎日ドキドキで楽しい毎日が送れるものだと思ってたけど、意外と何もないよね。高2っていったらもっとこう、キラキラ輝いてるはずだったのに。
「なんでこうなのかなあー。はぁ・・・」
漫画と自分との違いに思わずため息をついてしまった。弥生も「だよねえ」と言いつつため息をつく。
私も弥生も、今まで彼氏ができたことがない上に、クラスの男子ともほとんど喋ったことがない。
私は部活や生徒会にも入っていないし、バイト先のファミレスも女性ばかりなので男性とほとんど接点がない。
弥生は吹奏楽部に入っているけれど、こちらも女子ばかりだ。
男子と仲良くなりたいならまずは話しかけるしかない、なんてのはわかっている。
でも何て話しかけたらいいかわからない。急に話しかけて「いきなり何だこいつ」って思われるのも怖いし。
この調子じゃ彼氏なんて絶対できないよなあ、とテンションが思い切り下がったところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あれ、まだ返ってきてないんですか」
「人気の小説だから、しばらく予約で埋まってるよ。予約していく?いま予約しても3か月後くらいになるけど」
「いえ、いいです」
放課後、私は学校のすぐ隣にある図書館に来ていた。
前から気になっていた恋愛小説は、まだ貸し出し中だった。
3か月待ってまで読みたいとは思っていなかったのでそのまま図書館を出る。
今日はバイトもないしまっすぐ帰ろうかな。本屋に行きたいけど、今あんまりお金もないし。
そんなことを考えていると、学校の方からこちらに向かって走ってくる男子生徒が目に入った。
まわりの生徒は立ち止まってしゃべっていたりゆっくり歩いている中走っているから、ちょっと気になってしまった。
そんなに急いでどこに行くのかな。
その生徒が私の前を通り過ぎた後何かが落ちる音がした。音のした、足元を見てみると、携帯電話が落ちていた
これはすぐ渡さないと・・・って、足速っ!
よっぽど急いでいたんだろうか、男子生徒は図書館より少し先にある書庫に駆け込んでいった。
書庫に行くなんて珍しいなあ。
ここ、森野学園の学園長は本を集めるのが趣味で、この大きな図書館に入りきらない本を隣の書庫に置いてあるらしい。
書庫にある本はかなりマニアックな本が多くて、ほとんど外国語の本の上、貸出禁止なので生徒はほとんど立ち入らない。私も一度入ったきりだ。
男の子を追って、書庫に入る。オレンジ色の間接照明で照らされた室内は薄暗くてちょっと不気味だ。
「あれ、どこに居るんだろう」
男子生徒はなかなか見つからなかった。
室内のいたるところになんだか毒々しい色をした見たことのない植物があったり鎧が飾ってあったりしてそれがさらに不気味さを増している。
これ、いきなり動き出したりとかしないよね・・・?
できればすぐにここを出たい。けど携帯落としたままじゃ困るだろうし・・・。
ぐっ、と拳を握って歩き出す。
それにしても、本当にたくさんの本がある。背の高い本棚がいくつも並んでいて
それぞれにぎっしり本がつまっている。一体何冊あるんだろう。
ドキドキしながらどんどん奥に進んでいくと、2つの本棚の間に挟まれた赤い扉を見つけた。
・・・いかにも、怪しそうな扉だ。ここ、入っていいの?駄目じゃないの?でも、この先に入っていったのかもしれないし。
しばらく迷った後、ドアノブに手をかける。
―非日常への扉は、意外と近くにあるのかもしれない。
きらきら☆デイズの1ページ目。扉を開くとき、その言葉が頭をよぎった。
「あれ、なんか狭い・・・」
もっと広くて、また謎の植物や置物が置いてあると思ってたのに。
この部屋は、私の部屋と変わらない・・・6畳くらいだろうか。それくらいのスペースに本棚が3つしか置いていなかった。
さっきの男子生徒の姿はない。
見渡してみると、壁際にある本棚の中に、1冊だけやけに鮮やかな表紙の本がある。
他の本は古くてぼろぼろなのにその本だけ妙に綺麗だ。気になって、手に取ってみようとすると
「あ、あれ。なにこれ。取れない・・・」
引っ張ってみても、本棚に張り付いているようでなかなか取れない。
なんなの、これ。取れないとなると余計に気になる。
「ええい、引いてだめなら・・・押してみろっ」
カチッ
「えっ?!」
その本を押すと音が鳴り、本棚が真ん中からゆっくりと左右に開いた。そして開いた先にはまた扉が。
なに、これ。ついこの間、こんなの見たような・・・
あっ。この前やったゲームだ!この先はボス戦だったんだよね。装備万全にしてからセーブしないと。って、違う違う。
目の前で起こった突然の事を理解できず、混乱しまくっているとまた本棚はゆっくりと閉じていき、元通りになった。
どうしよう。これは、行くべきか、引き返すべきか。何か危ない部屋だったらどうしよう。
ゲームだとこの先は謎の研究施設だったっけ。口封じのために殺されたりしたらどうしよう。
ああ、でも気になる。この先に何があるのか。
大きく1回深呼吸。そしてまた本を押す。
ゆっくり開き、また現れる扉。もう一度深呼吸して、ドアノブを回す。