非日常への扉
ドアを開けると、そこは・・・玄関だった。靴が5足置いてある。その先には、また扉。
どういうことだろう。ここに住んでるの?入っちゃってよかったのかな。やっぱり引き返した方がいいのかな・・・。
ガチャリ。
考えていると、扉を開ける音がして中から男の人が出てきた。
「お、おお?!」
男の人は私を見ると一瞬驚いたような顔をしたあと、すぐ笑顔になった。
森野学園の制服を着ている。ネクタイの色が赤ということは、3年生。
・・・イケメンだ。キリッとして整っていて、笑った顔は可愛い感じ。
「ふへっ、あ、あの。こ、ここって・・・」
ドキドキして変な声が出てしまった。わけがわからなすぎて、まず何から聞いたらいいのかわからない。
「よく来てくれた。俺たちは君を待っていた!」
先輩が真剣な顔をして私の両肩に手を置いた。
「えっ、あ。あの・・・」
「落ち着いて聞いてくれ。俺たちはここを拠点として学園を脅かす敵と戦っているんだ。敵といってもなんの事だかわからないだろう?それは、普通の人間には見えないものだからな。しかしヤツらは人間に寄生しさまざまな悪影響を及ぼしているんだ。それを見つけ倒すのが俺たちの任務だ。 ヤツらが『見える』人間は少ないからな。人手が足りなくて困っていたんだ。本棚にスイッチがあっただろ? あれは普通の人間には見えないんだ。見えた、ということは素質があるということだ。 訓練すればすぐにヤツらを『見る』ことができるだろう」

口を挟む隙がないほどに先輩は喋り続ける。敵?普通の人間には見えない??
わけがわからないけれど、先輩は真面目な顔をして話しているし、冗談を言っているようには見えない。
「まぁ、すぐには理解できないだろうな・・・。まずは、ほかのメンバーを紹介しよう。入ってくれ」



言われるまま、靴を脱ぎ中に入る。
中は、まるで居間だった。まるでというより、本当に居間だった。
テレビがありちゃぶ台がありソファがある。キッチンや冷蔵庫もある。
ソファに2人座っていて、キッチンに1人が立っている。
「選ばれし者がやってきたぞー」
先ほどの先輩がそう言うと、皆の視線が一斉に私に向けられた。
「あっ!女の子だっ」
長髪を後ろで束ねた男の人がソファから立ち上がり寄ってきた・・・この人も赤ネクタイだから3年生だ。
「君、名前なんていうの?2年生だよね。こんな可愛い子チェックしてなかったなんて俺もまだまだ甘いなぁ」
長髪の先輩はニコニコしながらそう言ってきた。か、かわいいって!・・・でも、誰にでも言うんだろうなあ。
「えっと、私は・・・」
「あっ、もしかしてそれって俺の携帯ですかっ」
携帯電話を落とした男子生徒らしい。さっきはすぐに通り過ぎて行ったからよく見えなかったけど、 背が低めで可愛い顔をしている。緑ネクタイだから、1年生だ。
「うん、拾ったから届けようと思って」
手に握りしめたままだった携帯電話を手渡す。
「わーっ、すみません!落としたの全然気づかなかった。ありがとうございます!」
「かわいい子に拾ってもらえて良かったね、和泉くん」
長髪の先輩が1年生の頭をわしゃわしゃと触る。やめてくださいよー、と言いながらもされるがままになっている。
「それで、話の続きだが―」
最初に玄関で迎えてくれた先輩が話し出そうとすると
「騒がしいけど、なんかあったんですかー?」
と言いながら隣の部屋からまた男子生徒が出てくる。
「あっ、高岡くん!」
同じクラスの高岡くんだ。休み時間はいつも難しそうな本を読んでいたり、顔立ちが中性的で綺麗なので
女子の間では「ミステリアスでカッコいい」とひそかな人気がある。
「君は・・・!・・・・・・誰だっけ?」
はっ、とした顔をしたあと、誰だか思い出せなかったようで首をかしげている。
「同じクラスなんだけど・・・」
4月から同じクラスになって、まだ1か月くらいしか経っていないけど覚えてもらってないのは正直ショックだ。

「高岡先輩と同じクラスなんですね」
「名前覚えてないなんて酷いなあ」
「興味のないことはなかなか覚えられないんですよ」
「あー、でも俺もクラスメイト全員は覚えてないですよ」
「よし、そろそろさっきの話の続きをだな―」
「そうそう君、名前なんていうの?」
「え、えっとあの・・・」
みんながそれぞれ色々喋っていてどうしたらいいかわからない。
しかも皆男の人で、カッコよかったり可愛かったり綺麗で、まるで漫画みたいだ。

「そんなに一気に話しかけて、困ってるだろ。まずはここの事、説明したほうがいいんじゃないか」
今まで黙ってキッチンの方からこちらを見ていた背の高い先輩が寄ってきて言う。
「それもそうだね、いきなりでびっくりしてるよね。ゴメンね。じゃ、部長説明よろしく」
長髪の先輩が玄関で迎えてくれた先輩の肩をたたく。この人が部長なんだ。
「ここは、ジタクブだ!」
「・・・はい?ジタクブ?」
言われた言葉がすぐに頭の中で変換できない。
「自由の『自』に、宅配の『宅』。そして部活の『部』だ」
あ、ああその自宅でいいんだ。でも、なんで?
「あの、さっき見えない敵を倒す部活って・・・」
「なんだお前、まさか信じたのか?ぷっ、ふふっ!あんなその場ででっちあげたような話に騙されるなんてな」
部長が、馬鹿にしたような笑い方をする。
確かに信じられないような話だったけど、ものすごく真剣な顔をしていたし突然のことだったし・・・!
「部長の話は嘘か本当かよくわからないんですよ!俺も最初騙されたし・・・」
1年生の男の子が言う。 「あー、和泉の時は戦隊ヒーローだったか?喜んでついてくるんだもんなー。あれは笑った笑った」
その時のことを思い出しているのか、部長はまた笑いだし和泉君は顔を赤くしている。

「それで、自宅部っていったい何なんですか?」
「自宅部というのは、自宅のように過ごす部活だ」
「じ、自宅のようにとは・・・」
部長は当たり前の事のように言ったけど、正直全然訳がわからない。
「お前、自分の部屋で何をして過ごす?」
「えっと・・・テレビ見たりマンガ読んだりです」
「そうだ、それでいい。何をしてもいいし、何もしなくてもいい」
ど、どういうことなんだろう。
書庫の奥に赤い扉があって、開けたら本棚があって、スイッチ押したら本棚がひらいて、そこを開けたら自宅で??
「ま、いきなり言われても困っちゃうよね。でも、すぐに慣れるよ。俺がいろいろ教えてあげる」
長髪の先輩がまだ理解できていない私の頭をポンポンと軽く叩いた。

「ひとまず、俺たちから名乗ったほうがいいんじゃないか」
長身の先輩がそう言うと、「まずは俺からだな」と部長が話し出す。
「俺は自宅部部長の時任達貴(ときとう たつき)だ。3年A組。誕生日は12月25日。血液型はAB型、好きな食べ物は―」
「あー、はいはいその辺にして」
まだまだ続きそうな部長の話を長髪の先輩が止める。
「俺は人見陽也(ひとみ はるや)だよ。3年D組。仲良くしようね」
人見先輩が手を差し出してきたので、握手した。
・・・お父さん以外の男の人の手触るのって何年ぶりだろう。大きくてあったかいなあ。
次に、長身の先輩が名乗る。
「柏木信義(かしわぎ のぶよし)だ。達貴と同じ3年A組」
そのあとに何か一言あるかと思って待っていたけど、何もないみたいだ。少しして高岡くんが喋りだした。
「僕は高岡宙(たかおか そら)2年E組だよ。・・・って、同じクラスなんだっけ」
やっぱり私のことは覚えてないらしい。さっき『興味ない』って思い切り言われたしね・・・。
そして最後に和泉くん。
「俺は、富岡和泉(とみおか いずみ)です!1年B組です。よろしくお願いしますっ」
元気に自己紹介して頭を下げる。自然と「こちらこそよろしく」と声が出る。
「それで、君の名前は?」
人見先輩が聞き、他のみんなの視線も私に集まってくる。な、なんか恥ずかしい・・・。
「わ、私は千歳優衣(ちとせ ゆい)っていいます。2年E組21番です!」
聞かれてもないのに思わず出席番号まで言ってしまった。

「それでお前、入部するんだろ?」
部長が私に問いかける。あ、そっか。入部しないって選択肢もあるんだ。
「えー、もちろん入るよね?今、ヤローばっかでつまらないんだ。優衣ちゃんが入ってくれたら俺嬉しいな」
人見先輩にいきなり下の名前で呼ばれてドキッとする。
・・・お父さんや親戚以外の男の人に下の名前呼ばれるのって何年ぶりだろう。
「見ての通り、個性的な奴が多いし、男だらけだからな。嫌なら入部はしなくていい。強制はしないからな」
戸惑ってる私を見て柏木先輩が言う。
確かに、個性的なメンバーだ。改めて皆を見てみる。
部長はいきなり嘘をつくし、人見先輩は優しいけどタラシっぽいし、柏木先輩は・・・まだよくわからないけどちょっと怖いし 、高岡くんはかなりマイペースな感じだし、あ。和泉くんは人懐っこい感じで仲良くなれそうかな。
この中に、私が入ったらどうなるのかな。
うまく溶け込めるかな。
不安だけど、でも、もっとみんなの事知りたい。話してみたい。
皆の視線が集まる中、私はゆっくり口を開く。

これから始まるかもしれない、非日常に胸を躍らせながら―
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