天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】
私は全ての感情を押し殺し、
最高総である紫と最高総秘書である彩紫の道具になろう。
道具に心は必要ない。
ただの道具に必要なものは、
あの二人の采配を見極めることだけ。
『おはようございます、伊集院紫音。
今年度、議会書記を勤めます』
新学期早々、最高総と最高総秘書就任のセレモニーを
目前に控えた親友に告げることが出来た言葉は、
膝を折り頭を垂れて忠誠を誓いつつ、
機械的に感情を押し殺した意思のない飾りだけの言葉。
冷たい……氷のような言葉。
紫も彩紫もそんな私を見て、
一瞬悲しそうな眼差しを見せた。
それでも私はその二人の輪に、
今までのように入り込むことは出来ない。
紫も彩紫も今日からは学院の神。
今までのように気軽に声をかけられる存在では
……もうないのだから……。
唯でさえ、紫は卒業したら
綾音一族を背負うことが決まっている身。
卒業してまで私と共に居られるはずがない。
共に居られる時間が……短くなっただけ。
紫は何時か私の手の届かない遠い存在になることが
約束されている身の上だから。
それは彩紫も同じ事。
二人が歩く将来の道と、私が歩く未来絵図は違うのだから。
だから……目を合わさない……。
そんな私の覚悟が彩紫には伝わったのか、
彩紫の言葉が私に降り注いだ。
『紫音、宜しくお願いします』
あの頃と何も変わらない口調で……。
ピアノに置いた飾ってある写真を手にとって、
私は場所を隣の部屋のソファーへと移動する。
あの頃には戻れない。
だけど私は紫も彩紫も忘れない。
私は私に出来る形で……精一杯、
二人をサポートする。