天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】
彼らが学院生から嫌われないように、
二人が神前悧羅学院最悪の最高総コンビだったなどと言う
汚名を後世に残して欲しくないから。
願うなら伝説と謳われ語り継がれるような
そんな最高総コンビとなって欲しい。
その為には私は汚れ役の全てを引き受ける。
一生、光を見ることが出来ない
そんな闇の世界をこの背中に刻み付けて。
それが私に今出来る精一杯の友情。
こんな不器用な生き方でしか
……私は生きられない……。
ふと室内にチャイムの音が響いていることに気がつく。
忙しなく室内に響き渡る音からして、
かなり長い時間鳴らされているものなのかも知れない。
私は慌ててドアの方へ駆け出して扉を開く。
「紫音、遅いよ。
俺たちをどれだけ待たせるつもりだったんだ?」
扉を開くとそこには、
最高総になった紫と最高総秘書になった
彩紫が二人揃って私の部屋の扉前に立っていた。
慌てて私は部屋の扉を閉めると二人の前に出て膝を折り、
頭を垂れて忠誠の姿勢を保つ。
これが今の私たちの距離。
現実。
苦しいほどの沈黙の時間が押し寄せる。
「……紫……」
「彩紫、私が言うよ」
彩紫ではなく紫の声が廊下に響く。
「紫音、私は何も変わってないよ。
これからも変わるつもりはない。
それは彩紫も同じだよ」
紫の優しげな声が廊下に響く。
気がつくと各学部総代が、
私たちの方を遠目に覗き見ている。
「有難うございます」
……有難う……。
私は紫と彩紫のその気持ちだけで十分だから。
だから神が下界に降りて来てはいけない。
紫と彩紫は私が手を伸ばしても辿り付く事のない
最高総と最高総秘書のIDカードを持つもののみに許される
専用の直通エレベーターでしか行くことのできない聖域の住人。
「紫音……悲しいね。
私が最高総になると言う事は、
大切な親友とこうして言葉を交わすことも
出来なくなるのかい?
先にも私は言ったよ。
私は何も変わっていないし、
この先も変わるつもりはない。
私たちの在り方を変えているのは、
紫音……むしろ、君の心だよ……」
「紫音、紫の言うとおりだ。
定例会の時もそうだろ。
お前、不器用だから……わざと、
紫に喧嘩吹っかけるような態度で煽って」
「……彩紫……」
知っていたんだね
紫を感情論だけで走らせないためには……
あれが一番だと私は判断した。
「紫音、私は今も近くにいるよ。
紫音が手を伸ばせば、すぐに触れられる場所に。
私と紫音の間にも、彩紫と紫音の間にも
距離はないよ」