天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】
確かに距離はない。
手を伸ばせば……私は紫に触れられる。
こうして紫と彩紫の声も聴けるし、
私の声も二人に伝わる。
どうして……私は……。
「紫音、俺たちはお前を迎えに来た。
紫はこの学院を革命するぞ。
俺は……紫を全力でサポートする。
けど……俺だけじゃまだ100%とは言えない。
でも紫音と俺たちが組めば確率は高くなる。
紫の手をとれ」
彩紫の力強い声が、
私の闇を一瞬のうちに祓う。
紫が私に黙って手をさし伸ばし、
私は吸い込まれるように、
その手に自らの手を重ねていた。
その上から彩紫の手も重なる。
私たち三人の手がしっかりと重なり合わさったとき、
微かに……何処からともなく拍手が聞こえてくる。
それは決して多くはないけれど、
この『palais』で共に生活している各部総代たち。
少し前まで私たちを遠巻きに見ていた子たちが拍手をしてくれる。
その背後には紫綺さまと紫蓮さまの姿。
「私も安堵致しましたよ。
昨年まであんなに仲が良かった貴方がたが、
再度互いの絆を確認しあわれて嬉しいですよ。
精進なさい。
貴方がたの未来の為に……。
神前に新たな風を。
私も紫蓮も微力ながら力になりますよ」
柔らかく微笑んでくださる紫綺さまの姿に、
私も紫も彩紫も自然と視線が向く。
「最高総、私も精一杯精進させて頂きます」
「最高総、私もお手伝いさせてください」
「最高総、私にも出来ることを教えてください」
拍手をしていただけの総代たちも、
紫を慕って集まってくる。
「有難う。
麗・静・柳、君達にも私は期待していますよ。
共に頑張りましょう」
掟破りにも直接、総代たちに声をかけた紫。
そんな紫の態度に戸惑いながらも嬉しそうに微笑む総代たち。
『どうしよう。
紫さまが声かけてくださったよ。
僕たち……今、会議じゃないのに』
戸惑いながら、ひそひそと声を出す後輩たち。
「麗・静・柳。
最高総とて人形ではないよ。
勿論、神様などでもない。
一、神前生の代表でしかないよ。
それに……、紫をただの人形にするには勿体無いぞ」
彩紫が傍でひそひそと話し続ける
後輩たちに言葉をかける。
……確かに……。
確かにそうだよなー。
紫を人形にするなんて勿体無いし、
ましてや……紫を神様にするなんて出来ないよな。
「紫……彩紫ごめん」
涙が溢れ出して……止まらなくて。
普段は涙なんて他人に見せることなんてないのに、
今日は何故だか止まらなくて、止める術すらもわからない。