天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】
10.願いの代償 - 紫綺 -
真っ暗な闇がゆっくりと降りてくる。
……やめて……。
このままでは私が壊れてしまう。
誰か……この暗闇から私を連れ出して。
*
ゆっくりと何かを掴むように伸ばした掌。
その手から伝わるぬくもりが私を現実へと覚醒させていく。
……此処は……。
医務室?
確か……授業を受けていて……。
私が目を覚ましたとき、真っ白い天井が視界に移る。
寝かされていたベッドから体を起こして、
ベッドサイドのカーテンを開けると、
ゆっくりと立ち上がる。
「櫻柳KING、お目覚めですか?」
目の前には、校医の岸本医師が
眼鏡の淵に手を添えながら近づいてくる。
「……岸本医師」
「気分はいかがですか?
授業中に倒れてしまったみたいですね。
草薙議会進行が血相変えて、
貴方を抱えて飛び込んで来ましたよ」
岸本医師はそう言いながら私をデスク前の椅子に
誘導して座らせると、聴診器で診察していく。
「紫蓮は?」
「草薙議会進行は授業です。
今は6時間目」
「6時間目……私はどれほど眠っていたのですか?」
記憶を辿ろうとしても、
うまく繋がらない曖昧なものを手繰り寄せる様に
言葉を続ける。
「櫻柳KINGが眠られていたのは三時間です。
校医として、これ以上貴方に無理はさせられません。
貴方の心臓は……」
そう告げる岸本医師の声は声は残酷な現実を突き付けていく。
「KING、何を焦っているのです。
最近、この学院の風が少しずつ新しくなっていくのを
僕も感じています。
僕自身もここの卒業生です」
「えぇ……今、この学院は紫を中心に
生まれ変わろうとしています」
そう……。
それは私が成しえなかった大きな壁で私が求め続けた夢。
だからこそ……私は紫に私のような思いをさせたくないのです。