天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】






「紫蓮……」






顔にかかった髪を少しはらうと
ゆっくりとベッドの上で体を起こした。






「何か飲むか?」

「えぇ」





促されるままに、グラスに飲み物を入れて
紫綺の前に置く。


紫綺は水分を少し口の中に含むと
ゆっくりと飲み込んだ。


ふいに……静かに心臓の真上に手を当てる、
そんな仕草の一つ一つが不安になる。





「頻脈?」




問いかけた言葉に、
紫綺は静かに横に振った。





「あと少し……あと少しでもいいのです。
 この心臓がもってくれれば」



「大丈夫だよ」





お前は治る……お前が望み、
闘いさえすれば。





「紫蓮、そんなに悲しそうな顔をしないでください。

 大丈夫ですよ。
 明日、主治医の元に顔を出します。
 だからそのように連絡しておいてください。

 そろそろ顔を出してないと岸本医師にも
 叱られてしまいそうですから」



日に日に衰弱していく紫綺を一番近くで見つめている。



「オレも行く」



強く続けたその言葉に紫綺は何も言わずに
ゆっくりと目で笑った。


その笑みはオレ自身の意をくんだ肯定。



「紫綺、もう少し休め。

 顔色悪かったりしたら明日、診察の後
 強制入院で戻って来れなくなるぞ。

 帰って紫たちの革命を見届けたいんだろ」

「えぇ」




微笑みかける紫綺の体をゆっくりと支えながら、
再びベッドへと横たわらせる。




「ゆっくり休め。
 朝まで、ここに居る」





再閉じられた瞳がもう一度開く、
その瞬間を待ちながら……
オレもベッドサイドのソファーに横たわって軽く目を閉じた。






紫綺……お前は望めばいいんだ。




『生きたい』っと……独欲にまで……
望んでくれさえすればそれだけでオレは……。








祈りの夜は今もゆっくりと時を刻み続ける。



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