天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】
『生徒総会役員』とは学院の代表となる学院最高総合代表。
その補佐をおこなう学院最高総合代表秘書。
最高総合代表と呼ぶには長いので学院の者たちは敬意を込めて最高総と呼ぶ。
そして各学部総合代表が一名ずつ。
この学部総合代表は総代と略されている。
議会進行と呼ばれる生徒総会での司会役。
議会書記と呼ばれる総会での内容を一言一句違えることなく
端末にタイピングして書きとめていく書記。
最後は『KING』と呼ばれる神前悧羅学院寮の最高責任者。
以上の役員で構成され就任と同時に教師からも一目置かれ、
生徒の間からは神のようにあがめられる存在。
学院内でのその責務は重い。
言うなればエリート中のエリートのみが就任できるのが、
神前悧羅学院生徒総会役員と言うポジションでもある。
そして今年も私の元に一枚のカードが届いた。
その瞬間、一般生徒と区別され、
隔離された城の中での生活が決定される。
神前悧羅学院生徒総会役員専用寮『palais』。
生徒総会役員の就任を告げるカードは、
私とにって『閉鎖されるモノの烙印』に他ならない。
私の父はその座を私の従兄弟である綾音悧央に譲り、
三年前、理事長を退いた。
自宅の邸で過ごす春休み最後の夜、
家族で囲む夜の食事の席で最高総就任の件を告げると
父は凄く喜んだ。
だがその喜びを素直に受け止めることなど
私自身が出来ようはずもなかった。
この最高総と呼ばれる学院の顔には、
私以上に相応しい、昨年もその任を担い続けた
櫻柳紫綺【さくらやぎ しき】最高総がおられるのだから。
私などはまだまだ役不足……。
どれほどに革命を願っても、
自身の未熟さは私自身が一番良く知っている。
そんな葛藤を抱きながら翌朝、私は鳥籠の中へと
入寮し、最高総就任セレモニーと始業式・入学式の日を迎えた。
「紫、起きてる?」
ノックの音と共に同じく『palais』最上階の住人である
私の相方、学院最高総秘書に就任することになった
幼馴染の声が聞こえる。
「彩紫、入っていいよ。
起きてるから」
彼の名は、奈良朔彩紫【ならさき さいし】。
私と同じく神前悧羅学院昂耀校エグゼクティブ科に籍を置く
13年生。
世間で言う高校二年生。
「おぉ、紫の部屋もう片付いたのかよ」
「一応……荷物もあまり多くないから。
彩紫は?」
「俺の方は全然片付いてないな。
俺はいらないって言ったのに実家から親父が
大量の経済学の本送ってくるしよ。
これじゃ、何の為にわざと実家に置いてきたか
わかんねぇって」
「ふふふっ。
相変わらずだね。彩紫のお父さんは」
私の言葉の後、彩紫は深い溜息を一つ吐いた。
確かに私の部屋は、見渡しても、
殺風景とも言えるほどに何もない。
家具は高級家具が備え付けられているから、
それを使用すればいい。
私の私物と言えば、何着かの学院の制服と私服。
そして愛用のパソコンがデスクとノートと各一台ずつ。
それくらいのものだ。