天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】




「もう隠すことは出来ないのですね」





紫・彩紫・紫音の前でゆっくりと呟くと、
紫蓮を見つめてアイコンタクト。



紫蓮がゆっくりと頷いたのを確認して
私の身に起きた出来事をゆっくりと告げる。




「昨年の夏、私は最高総就任中に倒れ、
 検査の為に昂燿を離れ、父と共に紫音のお父様の病院に参りました。

 そこで知らされたのは、突発性拡張型心筋症と言う病名の告知。

 私の場合、薬で制御するにも限界があるようで
 今では心臓移植が一番好ましいと告げられています。


 ですが……心臓移植はドナーが見つかるまでに時間がかかりすぎる。

 そんな夢のような日を、病院のベッドに縛られて生活を続けながら待ち続けるより、
 学院の新たな姿が見たくて、紫に座を譲り、KINGとして学院に留まる道を選びました」







私の夢は……
紫たちの夢を叶えること。




その為に……
今もこの場所にいたいと思うこと。






三人は、ゆっくりと紡ぎたす言葉を
真剣に受け止めてくれた。





「紫綺さま、今から私たちにお付き合いいただけますか?
 どうぞ紫蓮さまも共に……」



紫がそう言うと、彩紫と紫音にアイコンタクトを送って
先に部屋を出ていく。


「紫綺、行くか?」


紫蓮が声をかけて、私はゆっくりと頷くと
手慣れた手つきで、私の外出の準備を整えて
支えるように手を添えた。


「紫蓮さま、手伝いましょうか?」


彩紫と紫音の言葉に、紫蓮はゆっくりと首を振ると
四人は紫より遅れて部屋をで、エントランスへと向かった。


エントランス前には、綾音家のリムジンが待機していて、
運転手がドアを開ける。

その車へと紫は真っ先に入ると、そのまま紫音と彩紫も続いて
最後に私と紫蓮が乗り込む。


五人が乗り込んだのを見届けて、
ゆっくりと閉じられたドア。


「冴木(さえき)、神前悧羅の大学病院へ」

「畏まりました。紫、坊ちゃま」


運転手の声がスピーカー越しに聞こえると、
車は目的の場所へと静かに動き出した。


車内の広々とした空間には座ることに疲れた私が
休みやすいように、寝るスペースを作ってくれている。


「紫……どちらへ」

「四時間くらいかりますから。
 紫綺さまは、少しお休みください。

 到着した先でお話しさせて頂きます」



紫にはそう言われたものの、
目的地に心当たりが見つけられない。


目的地まで、四時間といった。


四時間と言えば、悧羅校の方へと向かっているのだろうと推測される。

だけど気がかりになのは、大学病院と言う言葉。
神前悧羅には、今は大学病院など存在しない。
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