天使たちの過ごした日々【神前悧羅学院】
こんなにも明るい景色が訪れるなんて思いもしなかった通知を受け取った春。
あの日から数ヶ月。
季節は秋から冬に移り変わる。
信念と覚悟があれば……変革は訪れる。
その望みが、潜在意識を突き動かし神に祈りが届いた時、
その扉はゆっくりと開かれる。
*
「おはようございます。
紫最高総。
朝のモーニングティーをお持ちしました」
学院の制服に、スモックを身に着けた六年生の鹿ノ倉悟(かのくら さとる)が
ベッドサイドで朝の紅茶の支度をする。
HBW制度試験導入日。
それぞれのデューティーと呼ばれる上級生には、
ジュニアと呼ばれる下級生が一人一人与えられることになった。
ジュニアは、日々デューティーのお世話をしながら毎日を社会に出る日を目指して勉強する。
ゆっくりとベッドの上で体を起こして、悟がいれてくれた紅茶を楽しんだ後、
私は静かにテーブル方へと移動する。
「悟。
さぁ、今日は私に聞きたいことはありますか?」
問いかける私に、悟は小さなファイルを取り出して
テーブルの前に広げる。
授業の課題として出されたプリント。
自信たっぷりに書かれた答えとは裏腹に、
薄くでヒョロヒョロと綴られた文字を捕える。
「デューティー紫、この六番目の問題がわからなくて……。
一応、頑張ってみたのですが」
視線を向けるとそこには見誤った方程式が。
「悟、この方程式が間違っていますね。
この問題では……」
真新しい紙に、ペンを走らせて計算式を読み解いていく。
最後に答えまで導いた後、悟は笑顔になってお辞儀する。
その後、私が出した別の問題も一人でとけるようになったのを見届ける。
その後は共に朝食を取り、学院までの道程を一緒に歩いていく。
「おはよう彩紫」
「おはようございます」
見知った顔とすれ違うたびに
声の輪が広がっていく学院内。
「紫……」
ふと、学院内を姿を見せる紫綺さま。
紫綺さまの隣で微笑むのは紫蓮さま。
お二人の両隣、寄り添うように歩くのは
二人のジュニア。
「外出許可を頂いたのです。
一日限りですが……新しく生まれ変わった
学院を一目見たくて。
そして私のジュニアにも会いたくて」
そう微笑んだ、紫綺さまの周囲には自然と人の輪が広がっていく。
人と人の繋がりはゆっくりと広がっていく。
蒔かれた種は、時を刻んで未来へと芽吹いていく。
私たちが架けた天の架け橋をこえて……。