あの加藤とあの課長
あまりにこの感情と疎遠になっていたため、どうしていいか分からない。

課長に抱き締められて、髪を撫でられて。


分からないけれど心地よい。



「課長…。」

「いい加減、その役職呼びは止めたらどうだ?」



思わずきょとんとする私に、課長は意地悪く笑いかける。

あ、そっか。



「……。」



あ、どうしよう。



「…生渕、さん。」

「は?」

「…勘弁してください…。」



呼べない。



「なんで。」


少し不機嫌になった生渕さんを暫し見つめてから、私は言った。



「こ、心が追い付かないからです。」

「追い付かない?」



久しぶりのこの感じを持て余してしまっている自分に気付かないほど初じゃない。



「…本当にお前は。」



私の顎を掴んで上を向かせると、生渕さんはそのまま私の頬を撫でた。



「どうしてそう可愛いことを言うんだ。」

「かっ、可愛い!?」

「初々しいな、あの加藤が。」



それはこっちの台詞です。あの課長が…、可愛いだなんて。

……逆に恐ろしい。
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