あの加藤とあの課長
敏ちゃんの言葉の意味を考えながら部屋に戻ると、テレビを眺める増田ちゃんがいた。



「あ、おはようございます、加藤さん。」

「おはよー。」



生返事をすると、増田ちゃんは明らさまに顔をしかめた。



「どうかしましたか?」

「敏ちゃんにね、たまには川じゃなくてメダカになってみろって言われたの。」

「メダカ?」

「うん、流されるばかりじゃなくてって。」

「あー、なるほど。」



増田ちゃんは納得したように頷いた。



「え、意味分かるの?」



そう尋ねると、増田ちゃんはキョトンとしながら言った。



「メダカって、川の流れに逆らって泳ぐんです。本能的になんですけど。」

「そうなの?」

「実験しませんでした? ビーカーに水とメダカを入れて、その周りを縦縞を描いた紙で覆って。」

「してない…かも。」

「例えば紙を時計回りに回すと、中のメダカは反時計回りに回るんです。」

「へぇ…。」



なるほど。

流れに逆らう…か。



「あの人が言いたいこと、分かりました?」

「うん、たぶん。」



自分の意思で決定して進め、ってことかな。



「さてと、私はそろそろ行きます。」



立ち上がって、増田ちゃんがにっこり笑った。

いつもよりもナチュラルで、でもしっかりした化粧に、ワンピースという女の子らしい格好。


いかにもって感じだ。



「今晩は独り占めしてください、この部屋。」

「りょうかーい。」

「昨晩はすみませんでした。でもまぁ、結果オーライですよね。」



そう笑った彼女はきっと、気付いてる。
< 112 / 474 >

この作品をシェア

pagetop