あの加藤とあの課長
「べ、別に、なんでもないです…。」



山の中、なんだよ、ここ。夏、なんだよ、今。

ということは、当然…“やつら”がいる。私の天敵とも言える、やつらが。


とそのとき、上空で「ジジジッ…」と鳴き声がした。



「ひっ!」



肩が上がった私を見逃さなかった生渕さんは「まさか…」と呟いた。

見上げると、意地悪な笑み。



「お前、蝉が駄目なのか?」



素直に頷くと、どこか嬉しそうに笑う。



「へぇ?」

「…蝉持ってくるなんてことしてみてくださいよ、別れます。」

「俺はそこまで餓鬼じゃない。」



どうだか…。

一瞬で笑顔を消して真顔になった辺り、なんだか怪しい…。



「ちなみに蝉が駄目っていうのは語弊がありますね。」

「そうなのか?」

「私は節足動物が無理なんです。」



あのカクカクかさかさした生き物が無理。皆顔拡大するとキモいし。



「…うえ。」

「…何を想像してるんだお前は。」
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