あの加藤とあの課長
そのとき、後ろからお腹に回された腕に強く引き寄せられ。

目の前に迫っていたはずの金田さんは吹っ飛んでいた。



「こういった真似は止めてもらおうか。」



耳元で聞こえた声に、涙腺が崩壊しかけた。



「生渕さん…。」

「何もされてないか。」

「だ、大丈夫です…。」



なんとか返事をするも、あまりの近さに声が上ずる。



「そうか。行くぞ。」



そのまま私を引っ張って宴会場から連れ出すと、廊下に出た瞬間私を担ぎ上げた。



「下ろしてくださいっ。」

「うるさい、黙れ。」



仕事の時のような威圧的な声で言い放たれて、私は大人しくせざるを得なかった。

怒ってる。


何に怒ってるのかも分からない。もう分かんないよ~なんなの~…。



「ふ、ぅ…。」



とうとう崩壊した涙腺に、止めどなく溢れる涙。


涙で生渕さんの浴衣の肩の部分がぐっしょりと濡れた頃、私は床に下ろされた。

顔を覆っていた両手を生渕さんが剥がす。


思ったより近い生渕さんに頬が熱を持つ。



「陽萌。」

「ぅ、ぅ…。」



嗚咽が漏れて、涙がさらに溢れる。
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