あの加藤とあの課長
勢いに任せるように塞がれた唇。

何度も、角度を変えて、逃げることすら許さぬように、すべてを奪うように。



「呑むなと、言っただろ。」



確かに昨晩、呑まないで欲しいとは言っていたような、気がする。



「だって…。」

「だって、なんだ。」



理由なんて、ない。
ただ私が暴走しただけ。1人で、勝手に。



「愛想、尽かされたのかなって。」

「…は?」



生渕さんはまさに絶句といった様子。



「意外だって、言うから。そうやって冷めてった人も少なくないし。」



震える唇を噛み締めて俯くと、私はボタボタ涙を溢しながら続けた。



「生渕さん、綺麗所に囲まれて呑んでたし。隣にいたはずなのに。」



何これ。まるで嫉妬みたい。

でもどっちかっていうと、これは嫉妬じゃなくて不安。


愛想尽かされたのかなって。


不意に抱き寄せられて、生渕さんの溜め息が頭上で聞こえた。



「ほら溜め息吐く。苦笑いだっていっぱい見たもん。」



またぼやけ始めた視界に、柔らかい笑顔の生渕さんが写った。
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