あの加藤とあの課長
「困ってるんだよ、お前が可愛すぎるから。変なところで無防備だし。」

「…何それ。」



私が悪いみたい。



「愛想が尽きるわけがないだろ。」



私の両頬に手を添えて、コツンとおでこを合わせた。



「そんな程度の愛想ならとっくに尽きてる。お前の男関係は敏のおかげでほとんど把握してるからな。」

「愛想、尽きてないの?」

「当たり前だ。むしろ、意外なお前を知れて嬉しいしな、俺は。」

「冷めないの?」

「知らなかったお前を知れて、嬉しいだろ、普通。」



そう、なんだ。



「お前を手に入れるまで、どれだけかかったと思ってる。」



頬に添えれた手に自分の手を重ねて、目の前の瞳を見つめた。



「早々愛想は尽きない。」



また涙が溢れて、頬を伝っていく。



「泣き虫だな、陽萌は。」

「泣き虫だもん。」



どうして、こんなに涙が出るんだろう。今まで、男のことで泣いたことなんて、ないのに。

しゃくりあげる私に笑って、唇を合わせる。



「んんっ…。」



容赦なく深くなるそれに、頭がボーッとする。

唯一。


(もっと…。)

生渕さんの首に腕を回せば、背中に回った腕が、きつく私を抱き締める。


深く深く、もっと。
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