あの加藤とあの課長
「今週の金曜日の夜、暇かね?」



小柄のデブ…常務が専務に目配せしながら私に問いかける。

2人は厭らしい笑顔を浮かべている。



「…いえ、その日は接待が。」



そう言うと、常務は眉を潜める。



「ほう、では仕方がないな。また声をかけよう。」

「はい、申し訳ありません。」



一礼してから急いでオフィスに駆け込んだ。

まずいことになった。それだけは分かる。デート云々と言っている場合じゃない。



「…課長、どうぞ。」



少し冷めてしまったコーヒーを差し出すと、課長はふと目を細めてから私を見た。

仕事中の彼は、特に何を考えているのか分からない。



「…明日の会議に使う資料。探してきてくれ。」

「…はい。」



明日、会議なんてあったっけ。でも、課長がそう言うんだから、そうしよう。

私は素直に資料室に足を向けた。




「陽萌。」



資料室にやって来た課長は、会社だというのにそんな呼び方をする。

心配そうに私の頭を撫でた。



「どうした?」

「…目を、つけられたみたいです。」
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