あの加藤とあの課長
そう言うと、一気に顔をしかめる。



「専務と常務か。」

「…はい。」



ふと俯くと、課長が私の頬に手を添えた。

そういえば、こうしてプライベートの課長を見るのは久しぶりだ。


2人の時間を持つことなんて以ての外で。



「…どう、なるんでしょう。」



そう言った自分の声が思いの外不安げに揺れていた。


専務と常務はブラックリストのトップクラスで、その理由は、単純明確。

2人はうちの社長の親族で、そこそこ仕事もできるわけで。


権力は絶大。逆らうことは許されない。



「…なんて?」

「今週の金曜、空いているかと。」

「それで。」

「接待があると、言っておきました。」



咄嗟に思い付いたのはそれだった。最悪、嘘にはならないし。



「なら、接待を入れろ。すぐにだ。」

「はい。」

「…今回が初めてか。」

「はい、初めてです。」



仕事の延長とプライベートの狭間。仕事モードのまま話していたのだが。



「…陽萌。」

「…生渕、さん。」



彼は今、私の上司としてではなく、私の彼氏として私を心配しているのか。

抱き寄せられた腕の中、そんなことを考えていた。彼の背に腕を回すとなんだか安心した。
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