あの加藤とあの課長
そして金曜日、接待に向かおうとする私を課長が呼び止めた。



「送っていく。」



と、一言。

そして今、私は課長の車の助手席に乗っている。



「課長…。」

「プライベートだ。」

「…生渕さん。」

「なんだ。」



鮮やかなハンドル裁きで滑らかに車の間を縫って走っていく。



「あの、お酒呑まずに済ませられないかもしれないです。」

「なるべく呑むな。」

「…頑張ります。」



本間さんは、先輩たちでも落とせなかった人で、私の初めての大きい契約だった。

1人で接待をしたのも本間さんが初めてだった。



「…お前、本間さんと寝たりしてないよな?」



真っ直ぐなその言葉に、思い切り肩が跳ねてしまった。



「お前っ…!」



それまでの運転とは打って変わって、荒い運転で路肩に車を止めた。

ハザードを焚くと、生渕さんは物凄い形相で私の方を向いた。



「…寝たのか?」

「…何度か、以前に。」

「…寝てでも契約を取ってこいという時代は、もう終わったんだぞ。」

「し、知ってます。」



会社でも見たことのないほどの怒りを滲ませながら睨むから、思わず怯んでしまう。
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