あの加藤とあの課長
「迎えに来るから、終わったら連絡寄越せよ。」



その言葉とともに、生渕さんは去っていった。

…迎えに、来てくれるんだ。


嬉しくないはずがなく、私の頬は緩みっぱなしで。本間さんにそれを指摘された。



「何かいいことでもあった?」

「すみません、プライベートの方でちょっと。」

「ふーん、新しい彼氏?」

「…はい。」



これでは接待というよりはただのお食事だ。まあ、この人とはいつもこうなんだけど。



「あの人でしょ? うちの会社で倒れたとき来てくれた。」

「なっ、なんで分かるんですか!?」



オシャレな店内に不似合いな大声を出した私は当然の如く注目された。

えへへ、と会釈しながら席に座り直す。



「く、くくっ。陽萌ちゃんっ…。」

「わ、笑わないでくださいよ。」



本間さんは柔らかく笑って、肘をつき、組んだ両手の上に顎を乗せた。

懐かしむように目線を上にやりながら言う。



「あの日ね、救護室に運んだ後、陽萌ちゃんの会社に連絡を入れたんだ。」

「その節はありがとうございました…。」



本間さんはにっこりと笑って続けた。



「そしたら最終的に彼が電話に出てね。倒れたって伝えた瞬間、電話の向こうの空気が変わったんだ。」

「え?」

「焦ってるのもろ分かり。それからすっ飛んできたんだよ。すごい早さでね。」

「そ、そうなんですか…。」



なんとまあ。あの課長からは想像できない。

思わずくすくすと笑ってしまった。
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