あの加藤とあの課長
何かまずいものでもあったかと首を捻る私に、本間さんは続けて言った。



「胸元一面に広がった、キスマークをね。」

「!」



思い出した。

あの前日は直人が生渕さんの匂いがするって嫉妬して、めちゃくちゃに抱かれて…。


そのときにつけられてたんだった。



「あ…。」



あのとき、生渕さんが言わんとしていたことがやっと分かった。

彼も、見たんだ。


あのあと、何度か直人とのことを気にしていたような気がしていたけど、そういうことだったんだ。



「あのとき駆けつけた…なんだっけ、生渕くん?」

「…はい。」

「彼になら、任せられるな、陽萌ちゃんのこと。」



柔らかく笑って、グラスをくるくると回した。カラカラと鳴る氷の音が耳に心地よい。

心配、してくれてたのかな。



「彼、相当だよね。」

「え?」

「この先は、言ってやんない。」



悪戯っ子のように、本間さんは笑った。



「陽萌ちゃんもさ、相当なんでしょ?」

「…?」



意味が理解できずに首を傾げていると、本間さんは可笑しそうに笑った。



「これも、言ってやんないけどね。」
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