あの加藤とあの課長
会計を済ませてお店の外に出ると、少し離れた所に生渕さんの車を見つけた。



「随分お熱なんだね。っていうか過保護?」



クスクスと笑いながら、本間さんはタクシーに乗り込んだ。



「じゃあね、陽萌ちゃん。……そろそろ、ちゃんと加藤さんって呼んだ方がいいかな?」

「…そうかも、しれませんね。」



本間さんの言葉の意味は恐らく、私たちの関係を完全に切るということ。

最後に寝たのはいつだったか、もう分からないけど、もうそんなこともない。


当たり前のことなのに、どことなく寂しいこの感情はなんなんだろう。

これじゃあただのタラシじゃない。


走り去るタクシーを見送ってから、生渕さんの車に乗り込んだ。



「呑んだか?」



私の前髪に触れながら訊ねる生渕さんに「少しだけ」と答える。



「このまま俺の家でもいいか?」



ふと顔を上げると、仕事の時よりは幾分か柔らかいけれど、無表情な彼がいた。

最初からそのつもりだったくせに。



「狡い人。」

「は?」



あくまで私に選ばせようとする。どうせ選択肢なんてないくせに。

主導権はしっかりと握っているくせに。



「…行きましょう。」
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