あの加藤とあの課長
お風呂から上がると、リビングはクーラーで冷やされていた。



「本当、すっぴんだと童顔だな。」

「余計なお世話ですーう。」

「しかも仕事外だと子供だな。」



思わずムッと口を尖らせると、生渕さんは楽しそうに笑って私の頭を撫でた。

今日は社員旅行と違って完全プライベートだし、何より、相手が生渕さんだから…もう気を遣うこともない。



「生渕さんだって人のこと言えません。」

「そうか?」



そんな一言すら本当に楽しそうで、こっちまで笑顔になってしまう。



「私の座右の銘は“童心忘れるべからず”。前にも言いませんでしたっけ?」

「聞いたな。」



そういえば、と視線を泳がせる。



「大人になったら見えなくなるものがある。幼い、子供だからこそ見えるものがある。」

「そうだな。」

「だから、私は童心を忘れたくない。」



そう言いながら生渕さんが飲んでいたビールをひったくって少しだけ飲む。



「まずっ…、でもお酒は大事ですねえ。」

「言ってることめちゃくちゃだぞ。」



苦笑いする生渕さんに笑いながらビールを返した。



「お酒抜きってのは無理ですよ。」


< 142 / 474 >

この作品をシェア

pagetop