あの加藤とあの課長
さっきまでの眠気はどこへやら、今の私にはもう生渕さんしか見えない。


私に触れる手が、

愛を紡ぐ声が、

時折思い出したようにキスする唇が、


愛しくて。
苦しくて、涙が出た。



「陽萌…?」



私の顔を覗き込みながら、親指で優しく涙を拭ってくれる。


返す言葉が見つからなくて、代わりに私から生渕さんにキスをする。

この思いを、どんな言葉で表せばいいのか。


今の私には、分からないから。




夢中になって求めて、いつの間にか意識を飛ばしていたらしい。


気が付くと、目の前に生渕さんの寝顔があった。

しっかりと抱き締められていて、どうにも身動きをとれない。


(……それにしても、本当綺麗な顔…。)


改めてこうして見ると、そんじょそこらの人とは比べ物にならないくらいに整った顔をしている。

……他の人に失礼か。


でもこの人、モデルとかやった方が稼げたんじゃないかとついつい思う。



体制がだんだんキツくなってきて身を捩ると、逃がさないとでも言うかのように腕に力がこもった。


(逃げませんって…。)

前科があるから説得力ないけど、あのときの生渕さんは本当に悲しそうだったから。
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