あの加藤とあの課長
「さてさて、陽萌ちゃんも呑もうか!」



とニコニコ笑った先輩が私にグラスを持たせようとする。


あぁ、そうか。晋ちゃんにばかり呑ませていたのは、邪魔な番犬を先に潰すためか…。

頭のどこかでそう冷静に分析しながらも、私の目には涙が滲んでくる。



「晋ちゃん…。」

「今泉じゃないけど俺がいるよー♪」



晋ちゃんは完全に潰れて、ここぞとばかりに他の女性社員が晋ちゃんを連れて出ていった。



「うぅ……。」



滲んできた涙が溢れそうになったとき、やっと、彼が来た。



「……加藤?」



後ろから、低く凛とした声が聞こえた。



「課長!」

「お疲れ様です!」



と先輩方が口々に課長に声をかける中、私はただ振り向いて彼の姿を見つめていた。



「あぁ。」



適当に返事をしながら私の目の前で片膝をつくと、そっと顔を覗き込んできた。



「……お前、呑んだのか?」



課長だ…。



「課長ー。」

「ぅおっ…。」



晋ちゃんに抱きついたときと同じように課長に抱きつくと、課長は驚いた声を出した。
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