あの加藤とあの課長
「無言電話ですか？」



受話器を持ったまま固まる私に気付いた増田ちゃんが心配そうに声をかける。

受話器を戻しながら、私は深く頷いた。



「結構悪質ですね…。」



生渕さんのお陰で芋づる式に増田ちゃん、晋ちゃん、敏ちゃん、煌にはストーカーのことがバレてしまった。

別に隠してたわけではないんだけど…。



「警察は行きましたか？」

「行ってない…。」

「行った方がいいと思いますよ…？ 手遅れになりかねませんから…。」

「うん…。」



生渕さんに相談してみよう。私１人で警察なんて、とてもじゃないけど行けない。

とそのとき、再び電話が鳴った。



「…加藤さん。」



電話に出た増田ちゃんが、心配そうに私を見る。

私は無言で受話器に手を伸ばした。



「…もしもし、お電話変わりました。営業部の加藤です。」

『………陽萌…。』



見知らぬ声に名前を呼ばれて、ぞわりと鳥肌が立って冷や汗が吹き出た。

冷静に、冷静に…。



「…どちら様でしょうか。」

『どうして？ 陽萌…。ずっとずっと、あんな奴よりも前から君のことだけを見ているのに…。』



そんな言葉を残して、電話は切れた。
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