あの加藤とあの課長
壁に押し付けられる力に支えられて立っていただけの私の体は、そのまま床に崩れ落ちた。

背中から脈を打つように血がドクドクと溢れる感覚がする。

意識が薄れつつある中、涙が頬を伝った。


あーあ…、私、このまま死ぬのかな…。

生渕さんに言いたかったなあ。名前も…、呼んでみたかったな。


生渕さんに言いたい。
名前を呼びたい。

まだ、死にたくない。



「陽萌…? 陽萌!」



生渕さんの声が聞こえた。


(生渕さん…生渕さん…!)

朦朧とする意識の片隅で必死に生渕さんを呼んだ。


コツコツと床を歩く足音がする。どうやら大分慌てている。



「陽萌!」



声と共に足音が近づいてきた。


生渕さん…。

必死に首を動かすと、何とか視界の端に生渕さんを捕らえた。


月曜日ぶりの生渕さんだ…。



「陽萌!」



私の顔を覗き込んだ生渕さんは、何だか…泣きそうな顔をしているような気がする。



「好…き…。」

「陽萌…?」

「は、じめ…。好き…。」



言えた。ちゃんと、言えた。

あー、もう、死んでもいいや。


私はそっと目を閉じた。


生渕さんが私を呼ぶ声が聞こえるけれど、それに答えることもままならず、私は意識を手放した。
< 192 / 474 >

この作品をシェア

pagetop