あの加藤とあの課長
言えたの。呼べたの。
好きって。源って。

満足。


なんだけど、縋るように私の手を握る手が、決してそうはさせない。

この縋られ方に、私は覚えがある。


あのときと、似てる。

きっとまた、オモチャを取れまいと守る子供のような表情をしているんだ。




ふと目を覚ますと、たくさんの機械が視界に入ってきた。

薄明るい部屋の中、身を捩ると背中に激痛が走った。



「いっ…。」



動くことを諦めたそのとき、右手に違和感を感じた。



「ん…?」



そちらに目を向けると、私の右手を縋るように握り締める生渕さんがいた。

生渕さんはベッドにもたれかかって眠っていた。



私は窓に背中を向けているようで、私の後ろから光が差し込んでいる。

光は太陽よりも柔らかく優しいから、きっと月明かり。


月明かりにしては明るいから、今日は満月なのかもしれない。



「あ…。」



生渕さんの睫毛が、月明かりでキラキラと光ってる。

泣いてた…のかな…?


(不謹慎かもしれないけれど…、綺麗。)



「ん…?」



視線を感じたらしい生渕さんが、目を覚ました。
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