あの加藤とあの課長
「私が知る限り、課長は…ずっと加藤さんを見てて…、だから、私は結果的に加藤に負けたんです。」

「ちょっと待って、意味がよく…。」



グッと言葉を詰まらせた後、増田ちゃんは意を決したように言った。



「課長は、ずっと加藤さんが好きだったんです。私と付き合う、その前から。」



まさかの言葉に、私はあんぐりと口を開けた。


そういえば、そういった話を源から聞いたことは未だほとんどなかった。


結構前から好きだったっていうようなことは何度か聞いたことがあるけど…。

詳しくは教えてくれなくて、その度に適当にはぐらかされていたような。



「これ以上は言いませんけど! あれは、1年やそっとの想いじゃありませんよ。」



そう言って、増田ちゃんは鞄を持って立ち上がると、「お大事に」と微笑んで病室を出ていった。


1年やそっとじゃない…?

どうしよう…、源に聞きたい…!


そのとき、ナイスタイミングで源が病室に入ってきた。



「今増田とすれ違って…、『すみません』って言われたんだけど。」



と言いながらさっきまで増田ちゃんが座っていたパイプ椅子に腰を下ろした。

増田ちゃんたら…。


私はニヤけた顔を隠すことなくそのままに、源に言った。



「まぁ、源の恋慕の話を少々。」



そう言った瞬間、源の表情がさっと変わった。



「…何を聞いた?」

「さぁ…。」



首を傾げながらニヤニヤ笑うと、源は大きな溜め息を1つ吐いた。
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