あの加藤とあの課長
荷物をすべて運び終えた部屋に戻ると、すっからかんの部屋が私を迎えた。


なんか…あんまり変わらない気もするけど。

強いて言うなら、カーテンとか…ラグとか…テーブルとか、キッチン用品とか。



「陽萌。」



私の隣に来た煌は、私の部屋を眺めて呟いた。



「なんか、この感じ久々だな。」

「うん、私もすごく久しぶり。」



同棲と同棲の間の繋ぎのつもりで借りた部屋。1年以上も住んでいたなんて。



「駄目だなぁ、この感じ。何回やっても慣れないやー。」



視界を曇らせ始めたものを引っ込めるために上を向いた。


別に、寂しくなんてないのに。

これから待ってるのはあの頃の不安じゃない、幸せなのに。



「…俺、敏さんと先に生渕さんの家に向かってるから。ゆっくり来いよ。」

「うん。」



部屋を出ていった煌と入れ違いに、源がやってきて後ろから私を抱き締めた。

上を向いているのも変かと思って、俯く。



「…どうした。」



俯く私の後頭部に、コツンと源の額が当たる感覚がした。



「私ね、苦手なの、この感じ。」

「…うん。」



思いの外涙に濡れた声に、私を抱き締める源の腕をギュッ掴んだ。



「引っ越すときの、物を全部運び出した後のガランとした感じが嫌なの。」

「うん。」

「この虚無感がね、昔から嫌いなの。」
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