あの加藤とあの課長
「陽萌は課長が笑ったとこ見たことあるんでしょ?」

「一応ね。」

「あ、増田ちゃんはないって言ってたよ。」



どこから仕入れてきたんだか、晋ちゃんはそう言いながら水を飲んだ。



「見たって言ったって、営業スマイルだよ? そんなの見たうちに入らなそうだけど。」

「いやいや、それでも貴重だって。」



貴重だというのは、否定しないけれど。



「どうせなら、営業用よりもプライベートのがいいな。」



あの日、歓迎会の翌日、プライベートだったにも関わらず課長が笑うことはなかった。


課長が用意してくれた朝食を摂ると、課長は私を家まで送ってくれた。

そしてそのまま会社へと向かった。片付けたい仕事があるから、と。



「でもさ、よく喰われなかったよね。」

「ふぇ?」

「だって陽萌だよ、喰われてもおかしくないでしょ。」

「……それはどういう意味で?」



確かに私だって課長のことを言えた口ではない。結構…、いや、かなり、遊び回っていた。

それこそ誰彼構わず、来るもの拒まずだった。


でも、直人と付き合うようになってからはそれも止めた。



「だって、陽萌に憧れてる男がこの世の中にどれだけいると思ってるの?」

「彼氏持ちだよ私。」

「それでも。」



熱弁を始めそうな晋ちゃんを止めるために、話を変える。
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