あの加藤とあの課長
「出向、なんて、やだよぉ…。」

「陽萌…。」

「源たちと離れたくないしっ、行きたくないよぉ。」



子供のように駄々をこねて、いやいやと泣く。


分かってる。

今も昔も、私はその決定に逆らうことはできなくて、従うことしかできない。


仕方ないって、どうしようもないって、分かってる。分かってるけど。


どうしようもできないそれに、逆らいたくてたまらないんだ。

寂しいし、辛いし。



「っ、源ぇー。」



今まで、転勤になっても泣いたことなんてなかったのに。

当然のこととして受け入れてきたから。


当然じゃない日々に慣れすぎて、今が幸せすぎて、受け入れたくない。


離れたら弱音吐いたり泣いたりしないから。

今だけ、泣かせて。



「…陽萌?」

「う、ん。」

「もし、本当に嫌で、仕事放っぽってでも帰ってきたかったら。」



私を抱き締める腕に力が込められた。



「…そうしたっていい。お前1人養うくらい、容易い。」

「…源…。」
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