あの加藤とあの課長
そんな決意を胸に張り切る私の髪を、ツンと引っ張るものがあった。

いつも通り仕事用にポニーテールにしていたから、頭が後ろに倒れる。



「加藤さん。」



慣れたように呼ぶその声に、しかめっ面をなんとか隠しながら後ろを振り向く。

(この人…。)


見た瞬間、ピンときた。だって、お父さんそっくりなんだもの。



「課長の高山 彬(たかやま あき)です。どうぞよろしく。」



柔らかい物腰は、相手を安心させるものがある。…少し胡散臭いけれど。

この人が、今日から私の上司。



「東京の本社で一緒だったんだけど、分かるかな? 海外事業部にいたんだけど。」

「そうなんですか…。」



ただのダメ男ってわけではなさそうで、思わず安心した。

だってコネ入社っていうから…。



「こちら、もう1人の課長補佐の…。」



と、高山課長が自分の後ろにいた男の人を手で示す。

目があった瞬間、お互いにただ目を見開いて、呆然と固まった。



「……陽萌?」



先に言葉を発したのは、向こうだった。

スーツをきちっと着こなしているはずなのに、なぜかラフな感じが漂う。

そんなところも、私を呼ぶ声も、何も変わっていなかった。



「恵也…?」
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