あの加藤とあの課長
『ちゃんと食えよ。』

「明日から、そうするね。」

『……絶対だぞ。』

「うん。」

『ちゃんと戸締まりして、温かくして寝ろよ。』



そんな源に思わず笑ってしまった。



「なんか源、お母さんみたい。」

『心配してるんだ。お前は自分のことに無頓着なところがあるから…。』

「ありがと、源。」



それから少し、やっぱり仕事の話をして電話を切った。

結局、恵也のことは、言えなかった。


罪悪感に打ちひしがれながら、なんとなくベランダに出てみた。



「…言うのって案外難しい…。」



今までにこういった経験のない私は、どう話を切り出していいか分からない。


もしかして言わなくていいんじゃないかとすら思う。

だけど、私が源なら間違いなく言って欲しいと思うに決まってる。


だから、言わなきゃ…!

グッと拳を握ったその時、隣のベランダから物音がして、次に缶を開ける音がした。


隣のベランダに視線を送ると、向こうも私に気付いたらしく、しっかりと目が合った。



「…晩酌?」

「ベランダでってのも気持ちええで、陽萌も呑むか?」



ヘラっと笑ってそう言ったのは、恵也。
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