あの加藤とあの課長
「私は遠慮しとく、弱いし…。」



社宅だから、隣に住むのももちろんうちの会社の社員な訳で。

偶然にも、隣は恵也だった。



「あれやろ、彼氏に怒られるからやろ?」

「あー…、うーん…、それもあるかなぁ。」



源にバレたら怒られそう、うん。この状況もろとも…ね。

だから尚更に…言いにくかった。



「生渕さんやったっけ? 相当なやり手らしいやん。」



バッと恵也を見ると、恵也はビールの缶を見つめながら、それをクルクル回していた。



「なんで…知ってるの…?」

「課長が教えてくれてんで。あの人陽萌にベタ惚れみたいやから、陽萌のことならなんでも教えてくれんで。」

「へ、へぇ…。」

「たぶん『俺の方が陽萌のこと知ってる』いうん示したかったんちゃう?」

「そんなこと言われてもなぁ…。」



接点もないのに…。

あんまり私のこと知ってたら気持ち悪くなっちゃう…。



「お前、相当節操なかったらしいやん、その生渕さんも。」

「昔の話…です…。」

「今はお互い改心したみたいやけど? なんか、意外な気もするなぁ。」



「昔の陽萌を知っとると。」と、恵也は続けて言った。

それから30分ほど話をして部屋に入った。
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