あの加藤とあの課長
「なんか、懐かしいなあ。」

「え?」

「よう陽萌のこと送ってたなあ思て。ほら、バイクで二ケツして。」

「あー…、そういえば。」



走行中は振り落とされないよう恵也にしがみつかなきゃいけなくて、でもその時間が好きで。

よく無理言って乗せてもらったっけ。



「まあ、無理はアカンで? 陽萌はすぐ無理するさかい。」



信号で車が止まったそのとき、恵也が笑って私の頭を撫でながら言った。

あ…、この感じ。



「うん…。」



すごく、懐かしい。


思わず俯いたそのとき、右手の薬指にはまった指輪が視界に入った。

東京の本社にいた頃はチェーンに通してネックレスにしていたそれは、出向になって以来こうして右手の薬指にはまっている。


(源…。)


風邪と生理痛のWパンチがきたとき、会社で倒れて…。

湊のことでギクシャクしてた私と源だったけど、それがきっかけで元に戻ったんだ。


源のことを思い出すと、胸がほっこりする。




「なんや、彼氏のことでも思い出しとんのか?」

「へ?」

「顔。ニヤけてんで?」

「嘘…!」

「嘘。ほれ、着いたで。」



顔を上げるとそこは会社のすぐ側のコインパーキングだった。
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