あの加藤とあの課長
恵也に車のキーを渡された私は、先に恵也の車に乗り込んで恵也を待っていた。

荷物を取ってくるから、と言われたから。



「お待たせ。行こか。」



車に乗り込んで来た恵也は、心なしか怒気を孕んでいた。


決して今怒っているわけではない。

これは、よく恵也が喧嘩をしたあとに放っていたそれに限りなく近い。


(もしかして…。)

たぶん私の考えは当たっているけれど、何も言わないところをみると、私も言わない方がいいのかもしれない。



「どこの美容室行く?」

「あそこがいい。高校の時、私が行ってたとこ…。」

「まだやっとるんかな。」



そう苦笑しながら、恵也は車を出した。


高校の頃、私が贔屓にしていた美容室はおばちゃんが切り盛りする小さな美容室だった。

すごくいい人で、無理言ったこともたくさんある。


そして今日も、無理を言いに行く。


お店の駐車場に車を停めると、私は目の前の建物を見上げた。



「変わってないなぁ…。」

「ホンマやな。」



あの頃から10年も経っているというのに、何も変わっていないことにとても驚いた。
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