あの加藤とあの課長
「定時には帰れ。」



その言葉に従うべきなんだろうけど、仕事もまだ残っているし、帰るわけにはいかない。

そんな私の思いを読んだのか、課長が言った。



「このままぶっ倒れられたりしたら困る。だからちゃんと休め。」

「……。」



そりゃ、私に倒れられたら後が面倒だろうけど。でも…、でも……。

座ったまま俯くと、課長の手が頭に乗った。



「何日も穴を開けられたら困る。お前しか務まらないんだぞ、俺の補佐は。」



その言葉に驚いて顔を上げると、相変わらずのポーカーフェイスに苦味を滲ませていた。

そっか、課長補佐…何人も辞めてるんだった。



「だから、休め。」

「……はい。」



きっと、課長だってカバーしてくれる。本当は私が課長の仕事をカバーしなきゃならないんだけど。

私に回さず課長が自分で処理してしまえばなんの問題も起こらない。



「あと2時間、頑張れ。」



そう言って私の手から資料を取り上げて出ていく。


…優しい人。

今までの課長補佐だって分かってたはず。それでも耐えられなかったのは、恐らくやっぱり忙しかったからなんだろう。


私もダメにならないよう頑張らないと…。



なんとかデスクに戻ると、デスクの上にチョコと栄養ドリンクが置いてあった。



「課長が置いてたよ。」



晋ちゃんのその一言に、思わず仕事中にも関わらず笑いが込み上げてくる。

たぶん、笑いを噛み殺してる私はニヤニヤしてて気持ち悪い。


主が不在のデスクに目を向けると、その姿が浮かんでなんだか微笑ましかった。
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