あの加藤とあの課長
素直に言う他ないと、私はゆっくり、けれどしっかりと頷いた。



「昔…、私が高1の頃、1年半くらいなんだけど、この辺りに住んでたことがあるの。」

「…それで?」

「恵也は2個上の先輩で、私が1年の春から2年の夏くらいまで付き合ってた。」

「なんで別れた?」

「…恵也が大学進学を機に上京したの。遠距離恋愛になって、自然消滅した。」



そう告げると、源は小さく溜め息を吐いた。



「今は?」

「職場で偶然再会して、今は一緒に課長補佐をしてる、それだけ。」



自分が悪いのになんだか泣きたくなってしまって、涙が込み上げてきた。


ずるい、こんなの。

だから絶対に泣いちゃいけない。


グッと下唇を噛み締めると、いつものようにそれを源が制した。



「血が出る。」



その声音はいつも通り優しくて。

堪えていた涙は呆気なく零れ落ちてしまった。



「は、じめっ…。」



今度は私かその体に抱き付くと、しっかりと抱き止めてくれる。

優しく髪を撫でる手に安心する。



「ごめ、なさい。言おうって、言わなきゃって…。」



嗚咽混じりに言うと、源は困ったように眉を垂らして言った。



「怒ってない。少し…、嫉妬しただけだ。」
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