あの加藤とあの課長

「お先に失礼します。」



そう言ってオフィスを出ると、何人かの残業組の先輩から「お疲れ」と返ってきた。

課長は目が合うと、１つ頷いた。



「陽萌！」



ロビーに出ると、名前を呼ばれた。

振り返ると、嬉しそうな笑顔を浮かべる直人がいた。



「直人…。」

「今帰り？」

「うん。」



待ってたんだろうな…。分かりやすい…。

そんなところも可愛くて微笑ましくていいなと思ったもんだと過去を振り返る。



「送ってく。」

「ありがと。」



疲れた体に、車通勤の直人の言葉はありがたかった。

２人で地下の駐車場に下りてシルバーの直人の車に乗り込む。


私の家は直人の家よりも少し遠い。



「夕飯食べてくか？」

「そうしようかな。」



その方が帰ってからすぐに寝れるし。

そう思って返事をしたものの、次の瞬間、私の思考は遮断された。



「ちょ、まだ会社…。」

「本当は見せつけたいんだけど。」



私を抱き締めるその腕から逃れようと身を捩るも、そんなことを許してはくれない。



「……直人？」



突然力を強めた直人を不思議に思って声をかけると、直人は険しい表情をしていた。



「…誰？」