あの加藤とあの課長
「…駄目だな、連れて帰りたくなる。」



その言葉で、私はやっと我に返った。

何、甘えてるんだろう、私は…。こっちで頑張るって、決めたのに。


俯いて唇を噛み締める。



「噛むな。」



唇に触れて、唇を解放させる。

いつも通りすぎて、逆にそれが私の心を締め付ける。



「…もう、行くな。」



いつの間にか乗り込みが開始されている新幹線に視線を走らせる。

早く行かないと。



「…うん。」

「気を付けて帰れよ。」



その声は、いつも通り優しくて。



「源も、気を付けてね…!」

「あぁ。ちゃんと飯食えよ?」

「うんっ。源っ…!」



言葉が詰まって、上手く話せない。



「源っ…。」



名前を呼ぶことしか、できない。

離れたくない。
行かないで。


源は悲しそうに微笑むと、新幹線に乗り込んで、私を見た。


近付かない、近付けない。

近付いたら乗り込んでしまう。



閉まった扉が、外と内を隔てる。

ゆっくりと動き出した新幹線は、どんどん遠ざかっていく。


私は追うこともせず、ただそれを眺めていた。


開いていくこの距離は、物理的なものだけではない。
そんな気が、した。
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