あの加藤とあの課長
「あーっと…。」



発しようとした声を、そのまま自分の口の中で濁した。

総務に書類を持って行ってもらおうかと思ったんだけど、自分で行こう。


恵也に守る宣言をされてから数日。

目立った嫌がらせをされることもなく、平和ボケしそうな昼下がり。


皆外回りで出払ってしまっていて、残る社員も忙しそうだ。



「どうかしたん？ 加藤さん。」



オフィスを出ようとしたとき、恵也に声をかけられた。

あれ以来、恵也は私の行動をある程度把握したがるようになった。それは昔を思い出させる。



「総務に書類、届けてきます。」



そう言って書類を掲げてみせた。

「いってらっしゃい」と言って微笑むと、恵也はすぐに自分の仕事に戻った。


オフィスを出ようとドアを開けると、丁度中に入ってきた彼女とすれ違った。

すれ違い様、物凄く睨まれた。



「はぁ…。」



廊下に出て、小さく溜め息を吐く。

恵也が私を気にかける機会が多くなったことは、さらに彼女たちの癇に障ったらしい。


上から目線で申し訳ないけれど、彼女たちは仕事が出来るし、大事な戦力だ。

仲良くできた方が都合は良さそうなものを…。
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