あの加藤とあの課長
溢れだした思いが、涙になって頬を伝った。



「…そう。」



顔を上げると、そこにいたのはいつもの敏ちゃんで。

その声音は優しいものだった。



「…アンタ、甘ちゃんなのね。」



その声音は変わることはなかったけれど、細められた目が怖かった。

軽蔑される。



「誰かが側にいないと嫌なのね。」

「……。」



自覚はなかったけれど、言われてみればそうなのかもしれない。

彼氏が途切れることはまずなかったし、煌がいつも側にいてくれたから。


私、こんな甘ったれだったんだ。



「初めての独りに戸惑ってるのね。」

「…そう、かも。」

「物理的には独りでも、心は独りじゃないわよ。ちゃんと分かってる?」

「……ん。」



敏ちゃんは小さく溜め息を吐いた。



「陽萌の場合は、物理的な距離に耐えられるか否か、ね…。」



敏ちゃんが何か呟いたけれど、ほとんど聞き取ることはできなかった。



「…そろそろ寝るわよ。アタシ、明日帰るし。」

「え、そうなの?」

「うん。陽萌の顔見に来ただけだしね。それに平日ど真ん中だし。」

「あ、そっか…。」



明日帰ると言う敏ちゃんに寂しさを覚えながら、布団に潜り込んだ。
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